大判例

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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)731号 判決

第一 当事者

原告

板垣富士雄

右訴訟代理人

西川茂

被告

三洋開発株式会社

右代表者

笠井麗資

被告

三洋地産株式会社

右代表者

笠井麗資

右両名訴訟代理人

新津章臣

新津貞子

第二 主文

一  被告らは連帯して原告に対し金一二〇万二九五八円および内金一〇七万二九五八円につき昭和四七年二月六日以降右支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告らとの各自の負担とする。

四  右第一項に限り仮に執行することができる。

第三 事実

一  請求の趣旨

被告らは連帯して原告に対し金一六八万五九六六円および内金一五三万五九六六円に対する昭和四七年二月六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の原因

(一)  (事故の発生)

原告(昭22128生)は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

1  発生時 昭和四四年一〇月一六日午前九時四五分頃

2  発生地 東京都新宿区中落合三丁目八番先路上

3  被告車 自家用マイクロバス(多摩二な四〇三号)

運転者 訴外塩原治雄

4  被害者 原告(同乗中)

5  態様 訴外鈴木角之進の自転車との接触を防止するため、被告車が急ブレーキをかけたので、原告は被告車内で転倒した。

6  傷害の部位程度

(病名)全身打撲、挫傷。頭部外傷。顔面挫傷。右眼球出血。右第五中手骨輝裂骨折。右上顎・右下下顎骨輝裂骨折。歯冠三本折損(即ち上右第三歯、下右第一、二歯)あり、これの補綴は昭和四六年二月頃行つた。

(治療)

病院名

期間

実日数

入通院の別

目白

44.10.16~44.11.99

34

入院

44.11.20~44.12.4

11

通院

松尾歯科

44.11.8~44.12.5

13

東京労災

44.12.8~44.12.29

6

代々木

45.1.19~45.5.31

34

7  後遺症

頭痛、眼痛、頸部痛、右足部痛、その他神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限される後遺症を残している。これは自賠法施行令別表等級の第九級第一四号に相当とする。

(二)  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

1  被告開発は被告車を乗務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

2  被告地産(被告開発と本店所在地、代表者が同一であり、異名同体の会社である)は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(三)  (損害)

1  治療費残額

金一万八九〇〇円

(内訳)

東京労災病院分 金八〇〇〇円

松尾歯科診療所分 金一万〇九〇〇円

その他の入院費、治療費は自賠責保険・(金五〇万円)、労災保険(歯科治療費約金一〇万円)、被告開発において既弁済である。

2  諸雑費 計金八二六六円

(内訳)

入院雑費 金六六六六円

診断書、証明書料 金一六〇〇円

なお付添料は自賠責保険ないしは被告開発において支払済みである。

3  休業損害残額

金二六万六〇〇〇円

原告は本件事故のため、次のとおり休業を余儀なくされ、損害を蒙つた。

(原告の勤務先) 被告開発

(平均月収) 金四万六〇〇〇円

(休業期間)441016〜45728

(九か月十二日)

(労災保険より六カ月の受給分)

金一六万五六〇〇円

4  逸失利益

金八四万二〇〇〇円

原告は前記後遺症により、次のとおりの将来の得べかりし利益を喪失した。

(事故時) 二十一才

(労働能力低下期間) 五年間

(事故時の平均月収)金四万六〇〇〇円

(労働能力喪失率) 三五%

(年五分の中間利息の控除)

ホフマン方式

5  慰藉料残額 金四〇万円

原告は本件事故により、前記のとおり歯を三本折り、更にその他の身体に重傷を負つており、その肉体的苦痛は計り知れないものがある。これに加えて被告開発の社員から暴力や脅かしを受け病院から追い立てるように退院させられ、あまつさえ、直接の金銭的補償は一銭もなさず、原告は不自由な身体で文字通り東奔西走してやつと労災保険から休業損害の一部や、歯科の補綴費用を補填して貰つたような次第で、その蒙りたる精神的苦痛は筆舌に尽せない。よつて、被告らは慰藉料として最低金四〇万円を支払うのが相当である。

また、原告は本件事故のため、自賠法施行令別表九級一四号の後遺症の認定を受けている。このため労働能力は減退し現在でも定職につきえず苦しい生活をしている。よつて、被告らはさらに後遺症についての慰藉料として金七八万円を支払うべきである。

従つて、被告らは合計金一八万円をもつて原告を慰藉すべきであるが、原告は後遺症について自賠法に基づく補償金七八万円を得ているので、これを差引くと金四〇万円が被告らに請求すべき慰藉料となる。

6  弁護士費用 金一五万円

原告は、身体も不自由であり、経済的に窮迫しているので財団法人法律扶助協会の助力を得て本件訴訟を提起したもので、同協会は着手金として金五万円を原告代理人西川茂弁護士に対して立替支払している。なお、勝訴の場合の報酬額は同協会が査定するが、勝訴した金額の一割程度を報酬額とするのが通例であるから、前記1ないし5によつて明らかなとおり金一五三万五九六六円が本訴請求権となるので、その一割相当額金一五万円を報酬として支払わねばならない。右金円は終局的には原告の負担となることが契約上明らかであるから、原告は本件事故による訴訟提起のため、弁護士費用として金二〇万円の支払債務を負担したことになる。そこで、原告はそのうち金一五万円を請求額として計上する。

(四)  (結論)

以上の次第であるから、原告は被告らに対し、金一六八万五、九六六円の損害賠償を求めるとともに、弁護士費用を除く金一五三万五九六六円に対して本訴状送達の翌日たる昭和四七年二月六日以降年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(五)  抗弁に対する原告の答弁

1  過失相殺は否認。

2  損害の填補については、昭和四四年十二月分(金二万二〇〇〇円)を否認し、その余を認める。

四  被告らの答弁

(一)  請求原因第(一)項は認める。

(二)  同第(二)項中被告開発と被告地産との両名ともに被告車の運行供用者であつた点は、認める。

(三)  同第(三)項について。

1  治療費について

東京労災病院分については中央労働基準監督署に於いて労災保険給付で支払済ある。

2  雑費については否認。

3  休業損害について。

原告が被告開発に勤務し、当時一か月金四万六〇〇〇円の収入を得ていた点は認める。但し源泉徴収税金一、六二〇円が含まれていた。その余の点は否認。

4  逸失利益については否認。

5  慰藉料についても否認。

即ち原告は本件事故により目白病院に入院し、同病院で昭和四四年十二月四日治癒した旨の認定がなされたにもかかわらず、なお治癒していないとして欠勤したり出社しても仕事もせず昭和四五年一月六日被告開発の社員寮を出てより出勤せず、自然退職となり、住所不明のままであつた。

但し後遺症補償として金七八万円が填補ずみである点は認める。

6  弁護士費用については、金五万円程度で認めるけれども、その余は争う。

(四)  同第(四)項は争う。

(五)  抗弁

1  過失相殺

原告の乗車していた被告車は通称マツダライトバンバス二五人乗りであつて原告が着席していた後部座席より前部までは五メートル余りの距離がある。

しかも事故当時原告と運転者を除き五人の同乗者があつたが原告を除き怪我をした者は誰れもいない。

原告は車内最後部の通路突き当りの座席にすわり、運転者の制動操作に漫然としていた為反動で前部運転席横迄タタラを踏んで飛び出したものである。

この事実からみれば、自動車運転者に各種の注意義務があると同様に同乗者に於いても何時車輛が制動されるか曲るかこれに対処する為座席又はつりかわ等につかまつて身の安全を保持すべき注意義務のあること言うまでもない。

殊に所謂乗用車と異なり被告車の如く長い通路を有するマイクロバスに於ては尚更であるし、又二五席もある車輛で原告を含めて乗員六名の状況で殊更に通路の突き当りに座り前横にある座席にもツカマラないで乗車していた原告には重大な過失がある。従つて、損害額について過失相殺されるべきである。

2  損害の填補金

三五万二五六八円

休業損害と主張する額に充当されるべきものとして、次のとおり原告は弁済を受けている。

労災保険より昭和四四年十月二十一日以降昭和四五年五月三十一日まで合計金二十七万二一八八円を受領している。

被告開発は給与として次のとおり計金八万〇三八〇円を弁済した。

昭和四四年一〇月二八日(同月分)

金三万一三八〇円

同年十一月二八日(同月分)

金二万七〇〇〇円

同年十二月二七日(同月分)

金二万二〇〇〇円

第四 理由

一(事故の発生)

請求原因第(一)項の事実は当事者間に争いがない。

二(責任原因、過失相殺)

被告両名とも被告車の運行供用者であつた事実は当事者間に争いがない。被告側主張の過失相殺の事情があつたとしても、賠償額を減額しなければならない過失が原告にあつたとは評価すべきでないと解するのを相当とする。従つて過失相殺の主張は採用できないので、被告らは自賠法三条により、原告が本件事故により蒙つた後記認定の損害を賠償する責任がある。

三(損害)

1  治療費 金一万八、九〇〇円

<証拠>を総合すれば、原告は東京労災病院に対し金八〇〇〇円(労災保険給付により支払つた入院費、治療費とは別個のもの)、松尾歯科診療所に対し金一万九〇〇円の治療費を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  諸雑費 計金八二六六円

(1)  入院雑費 金六六六六円

<証拠>を総合すれば、原告は入院中、日用品の購入、栄養の補給、通信費等のため金六六六六円以上の金員を支出していることが認められる。一方入院中の患者が、その入院中日用品の購入等の経費として一日当り金二〇〇円宛位の支出を余儀なくされることも昨今の物価からみて容易に推認できるのみならず、原告が単身上京中の身であつた事情を参斟すれば、原告主張のとおり金六六六六円は本件事故と相当因果関係にある損害とみるべきである。

(2)  診断書、証明書料

金一、六〇〇円

<証拠>を総合すれば、原告は東京労災病院に対し診断書料として金五〇〇円、松尾歯科診療所に対し同じく診断書料として金一〇〇〇円、代々木病院に対し証明書料として金一〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  休業補償

金四一万七、一七二円

原告が本件事故当時、被告開発に勤務し、一か月平均金四万六〇〇〇円の収入を得ていたことは当事者間に争いがない。

そして、<証拠>を総合すれば次の事実を認めることができる。即ち、前記平均月収金四万六〇〇〇円には源泉徴収税金一六二〇円が含まれている。原告は本件事故発生以降東京労災病院で後遺症の認定を受けた昭和四五年七月二八日までの間(通算九か月一二日)ほとんど稼動していなかつた。

右認定事実によれば、昭和四四年一〇月一六日以降同四五年七月二八日まで原告の本件事故により失つたとみられる所得額は次のとおりで、金四一万七一七二円となる。

4  逸失利益

金五五万九、一八八円

原告が本件事故により自賠法施行令第二条別表第九級第一四号に該当する後遺症を受けたこと、原告が本件事故当時被告開発に勤務し、平均月収金四万六〇〇〇円(但し源泉徴収税金一六二〇円を含む。)を得ていたことは前認定のとおりである。<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。即ち原告は昭和四四年八月八日付で被告開発に別荘地のセールスマンとして入社し、与えられた条件の下で歩きまわつたけれども、本件事故までの二か月余の間に一件も実績をあげ得なかつた。本件事故もセールスに赴く途中に遭つたものであり、目白病院への入通院が終つた同年一二月上旬頃、被告開発の首脳部から「出社し、体ならしも兼ねて徐々に出来得る仕事から適当にしてみるように」指示された原告は出社したものの、上司の意に副うような出社態度ではなかつた。従つて被告開発の上司と原告とは折合が悪化の一途をたどり、昭和四五年一月六日頃、被告開発の社員寮から退去を余儀なくされ、そのまま退職扱いとなつた。その後労災保険から支給される休業補償等により生計をたてながら通院加療をした。原告は後遺症が認定されたならば、その後直ちに働かねばならないという前提で、予めダンプカーの運転手として埼玉県内の某企業に就職を内定しておいた。昭和四五年七月二八日後遺症第九級第一四級に相当する旨の認定を受けるや、その直後から右内定のとおりダンプカーの運転手として勤務し、当初は不十分の働きであつたけれども、間もなく日給金八〇〇〇円の手取りで一か月二〇日から二五日稼働できるようになり現在に及びその内から金五万円位を郷里の母のもとへ送金している。右認定事実によれば、既に後遺症による経済的損失は解消したものとみることもできないわけではないけれども原告が右後遺症をカバーし、それ相当の努力の結果、一か月金一六万円以上の収入を得ているものというべきである。そして当初から右の程度の収入であつたわけでなく、本件事故時の収入がそれ程高額ではない事情、後遺症が認定されてから既に二年余経過している現在(口頭弁論終結時)にあることを参酌し、後遺症に伴う逸失利益としていわゆる労働能力喪失説を考慮に入れ、事故時の収入の三五%(労働能力喪失率表による第九級相当)の減少とみて中間利息を控除せず三年分を認めるのを相当とする。従つて金五五万九一八八円を逸失利益というべきである。

5  慰藉料 金一一八万円

前記認定の諸事実およびその他諸般の事情を総合すると本件事故により原告が蒙つた精神的損害は金一一八万円(内訳、治療中分金四〇万円、後遺症分金七八万円)をもつて慰藉するのを相当と認める。

四(損害の填補)

計金一一一万〇、六六八円

ところで、以上認定の損害額金二一八万三五二六円に充当されるべき既填補分が次のとおりである。即ち、自賠責保険から後遺症に対する補償金として金七八万円、労災保険から休業補償給付金として金二七万二一八八円の支払を受けている。更に原告が被告開発より休業中の昭和四四年一〇月分の給料として金三万一三八〇円、同年一一月分の給料として金二万七〇〇〇〇円の支払を受けている。以上の事実は当事者間に争いがない。なお被告側は「同年一二月分の給料として金二万二〇〇〇円も原告に支給済みである」旨主張しているけれども、これに副う証人宮部正雄の証言は採用し難く、乙第二号証(賃金台帳)中、当該月欄に原告の受領印もないことからみて、これをもつて証明があつたとは認め難く、その他右主張を認めるに足りる証拠はない。結局既に受領した金員の合計は金一一一万〇五六八円となり、これを控除した金一〇七万二九五八円が原告において被告らに支払を求め得る残金となる。

五(弁護士費用) 金一三万円

以上のとおり原告は金一〇七万二九五八円の損害金の支払を被告らに求め得るところ、<証拠>を総合すれば、被告らはその任意の支払いをなさなかつたので、原告はやむなく財団法人法律扶助協会の助力を得て弁護士である原告代理人にその取立を委任し、同協会は着手金として金五万円を原告代理人に立替支払をなし、さらに原告は原告代理人に対し、事件完結後成功の程度に応じて同協会の法律扶助審査委員会又は部会の認定した報酬額を同協会を通じて支払う旨約定していることおよび前記着手金は終局的には原告の負担となるものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、本件訴訟の経過、右認容額などに照し、原告が被告らに負担を求めうる弁護士費用として金一三万円と認めるのを相当とする。

六(結論)

そうすると、被告らは連帯して原告に対し金一二〇万二九五八円およびこれより弁護士費用金一三万円を控除した残金一〇七万二九五八円につき訴状送達の翌日である昭和四七年二月六日(この点は当裁判所に顕著である。)以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。従つて本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余の請求を失当として棄却する。訴訟費用の負担について民訴法第九二条、第九三条を適用し、弁護士費用として認容額の一割余を認めていることを参酌して原告側と被告側との各自の負担とし、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。 (龍前三郎)

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